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最高裁判所第一小法廷 平成7年(ク)107号 決定

《住所略》

抗告人

野島弘光

右代理人弁護士

藤井與吉

藤井眞人

紺野稔

秋田徹

《住所略》

相手方

江尻宏一郎

《住所略》

相手方

八尋俊邦

《住所略》

相手方

山下英明

《住所略》

相手方

水民護郎

《住所略》

相手方

河西乾二

《住所略》

相手方

田淵守

《住所略》

相手方

宗重章

《住所略》

相手方

熊谷直彦

《住所略》

相手方

立木常男

《住所略》

相手方

越田保

《住所略》

相手方

久保亮一

《住所略》

相手方

中村稔

《住所略》

相手方

堀野和夫

《住所略》

相手方

米倉國輔

《住所略》

相手方

大木莊三

《住所略》

相手方

園山裕三

《住所略》

相手方

大原寛

《住所略》

相手方

清水英邦

《住所略》

相手方

古屋〓

《住所略》

相手方

大塚卓朗

《住所略》

相手方

池田正雄

《住所略》

相手方

矢内重晴

《住所略》

相手方

伊藤淳

《住所略》

相手方

杉田敬一

《住所略》

相手方

伊藤金雄

《住所略》

相手方

近藤久男

《住所略》

相手方

堀栄一

《住所略》

相手方

〓岡稔

《住所略》

相手方

石栗一民

《住所略》

相手方

川島麒平

《住所略》

相手方

守戸一清

《住所略》

相手方

内海昭

《住所略》

相手方

石川良二

《住所略》

相手方

本間徹治

《住所略》

相手方

〓暎一郎

《住所略》

相手方

有田昭二郎

《住所略》

相手方

江口和夫

《住所略》

相手方

丹野武宣

《住所略》

相手方

神谷惠之助

《住所略》

相手方

矢島一男

《住所略》

相手方

古谷公男

《住所略》

相手方

金子廣幸

《住所略》

相手方

川添雄吉郎

《住所略》

相手方

西川晃一郎

《住所略》

相手方

糸魚川忠巳

《住所略》

相手方

藤村菊苗

《住所略》

相手方

八木竜朗

右47名代理人弁護士

那須弘平

井口多喜男

右抗告人は、東京高等裁判所平成6年(ラ)第1421号担保提供命令に対する抗告について、同裁判所が平成7年1月20日にした抗告棄却の決定に対し、更に抗告の申立てをしたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

民事事件について最高裁判所に特に抗告をすることが許されるのは、民訴法419条ノ2所定の場合に限られるところ、本件抗告理由は、違憲をいうが、その実質は原決定の単なる法令違背を主張するものにすぎず、同条所定の場合に当たらないと認められるから、本件抗告を不適法として却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 遠藤光男)

●特別抗告理由書(平成7年2月15日付)

平成7年(ラク)第44号

特別抗告理由書

特別抗告人(被申立人) 野島弘光

相手方(申立人) 江尻宏一郎

右当事者間の表記の事件につき、特別抗告人は別紙の如く特別抗告の理由を主張する。

平成7年2月15日

右特別抗告人代理人

弁護士 藤井與吉

同 藤井眞人

同 紺野稔

同 秋田徹

最高裁判所御中

別紙

第一(一) 国民が憲法第32条で受けることを保障されている裁判は適法・公正な裁判であり、就中判決の帰趨を決すべき重要事項に付ての事実認定や法令解釈(適用)が客観的に良識に叶うことが要請されていること明らかと思料する。

(二) 従って、原審裁判所の決定の如く、重要事項に付ての事実認定に誤り並びに判断遺脱若しくは理由不備があり、又、特別抗告人の主張の真意を誤断すると共に商法第106条2項の「悪意」に関する法令解釈を著しく拡張して、本件巨額担保の提供を命じた裁判は、特別抗告人から本案並びに本件に付ての公正な裁判を受ける権利を奪ったに等しく、憲法第32条の違反に該当する。

第二(一) 相手方等の本案三井物産(以下三井と略称する。)と子会社物産不動産との合併に係わる不法行為は、以下の事情を勘案すれば、当初から物産不動産株主を利する意図のあったこと明らかであり、そのため相手方等はその任務に背き、会社に有形・無形の財産上の損害を与えたのであるから、商法第486条の背任に該当すること明らかと思料する。

一〈1〉 三井が100%(1億株)所有する物産不動産株式の中、1,500万株を売却したのは本件合併直前の第67期(昭61・3・期)であるが、同時期同業不動産会社の株価は最低と最高との比較では、三菱地所は5.29倍、三井不動産は3.55倍と暴騰していたのである。

〈2〉 本案合併契約は次の第68回定時株主総会(昭和62・6・26開催)で決議されているから、三井は約1年後に吸収合併する物産不動産の株式を親密な4名の法人株主のみに殊更に売却したことになるのである。

〈3〉 物産不動産株式の株価を著しく不当な高値に算定するため、合併相手の三井の資産の再取得評価額(計6,776億余万円)を算出の基礎とすることを企画し、日本不動産研究所に依る15冊の鑑定評価書を作成し、約2億円の費用と1年余の時間をかけているが、特別抗告人の長い株主生活でも合併比率算定のための専門家による資産の鑑定評価を見聞するのは極めて稀であるが、况してや本件は親子会社の合併であり、通常ならあり得ないことである。

〈4〉 物産不動産株式の売却先及び株式数は、何れも金融・資本関係等を通じ、密接な関連のある三井生命400万株、日本生命400万株、第一生命300万株の生命保険3社の他は、金融・資本・取引関係等に於てより密接な三井・富士の両銀行が除かれ、何故三井信託銀行400万株が選ばれたかであるが、それは三井信託銀行なら、「特定金銭信託」を利用することによって、相手方等縁故者個人の買付・所有でも同行名義にすることができたからであり、以上の事情を勘案すれば、本案の発生の根元と推量されるのである。

二〈1〉 而して、相手方等は、三井と子会社物産不動産との合併契約に係わる合併比率決定の基礎とする株価算定に際し、三井は株式市場の株価の平均値625円を採用したので、法は合併に関し同一評価基準を求めているから、非上場とはいえ、資本金50億円、社歴数十年の物産不動産の株価は、株式市場に上場されている同業他社株式の株価に比準して決定する類似業種比準方式により600円前後に算定するのが正常・妥当といえたのである(適正に選択した標本会社4社では405.5円に過ぎなかったのである。)。

〈2〉 然るに、相手方等は物産不動産の株価算定に当り、85%の大株主且つ同社の社長も三井の現・旧役員であるという独占的権限を行使し、実質純資産価額方式を採用したのは未だしも、物産不動産自体の資産の再取得評価額ではなく、利害の対立する合併相手の三井の資産の再取得評価額6,776億余万円に準拠して算定するという、驚くべき不公正な方法で2,666円と妥当値の略4倍の破天荒の高値に決定したのである。

〈3〉 右の結果、合併比率は正常なら物産不動産1対三井1であるのに、三井4に決定されたが、これは三井の株式に対し逆粉飾決算同然の不法をなすと共に、物産不動産の計4名1,500万株所有の株主に対し、三井の株式を3倍の4,500万株も余計に割当交付したことになり、三井に1株625円として、281億2500万円の損害を与えたものである。

三 而して、相手方等は株主総会に於て本案違法な合併契約に係わる議案の承認を得るに際し、実質1対4の増資を正常な場合の1対1の増資と装い且つ不法を秘匿するため、物産不動産は合併契約成立日(昭和62・4・30)の直前1ケ月間に倍額増資を2度も実施しながら、この重大事実を合併契約書には記載せず、また物産不動産の株価を三井の固定資産再取得評価額6776億余万円に基づき算定し、仮にも物産不動産の固定資産689億円を約10倍に評価替えすると同様のことをなしながら、法の要請する合併貸借対照表の作成並びに計算書の添付など不可欠な措置を一切とらずに目的を果し、事情を知り得ない三井の株主を実質的にも1対1の増資と錯覚させたのである(株主総会決議取消し理由が存在した。)。

四 而して、相手方等は本件担保提供命令申立書の中で、相手方等の不法行為により三井には損害が発生していないと主張したので、特別抗告人は補足的に4,500万株もの過剰株式の発行による配当金の余分な流出や株価の減価は三井の損害にならぬ筈はないと追加主張したものである。

(二)一 右特別抗告人の主張に対し、第1審決定は「仮に合併比率が不当で、被吸収会社の株主に対しその資産内容等に比して適当な存続会社株式の割当が行われたとした場合、被吸収会社の株主が不当に利得する反面、存続会社の株主が損失を被ることになって株主間の不公平が生じることはありうるとしても、合併前の各会社の資産及び負債はすべて合併後の会社に引き継がれ、他への資産の流失や新たな債務負担はないのであるから、合併後の会社自体に損害が生じることはないことが明らかである。」と判示されたので、特別抗告人は主張の不備のためと思料し、抗告に当り以下の如く、従来の主張を補正したのである。

二〈1〉 即ち、本案不法行為は物産不動産株主を利するため、前記の如く著しく不公正な方法で物産不動産に極めて有利な合併比率を決定し、同社株主に対し、1株625円の価値のある三井の株式4,500万株を不法に割当交付したものであるから、正常に売却若しくは発行した場合に比し三井の現金・預金勘定に入金されるべき金額を1株当り625円として、計281億2500万円減少させ、三井に同額の損害を与えたこと明らかである。

〈2〉 別言すれば、相手方等が職務執行に忠実なら、当然受領・入金する義務のあった株式代金281億2500万円の受領を故意に怠ったと同然の背任行為をなしたのであり、又不法な利益を得た4名の物産不動産の法人株主は各自独立した別会社であるから、合併後の三井がその不当利得を吸収若しくは引き継げる訳ではなく、三井(会社)に相手方等が受領・入金すべき株式代金281億2500万円の入金がなかったことは、原決定の判示の如く、「合併前の各会社の資産及び負債はすべて合併後の会社に引き継がれ、他への資産の流出や新たな債務負担はない」としても、会社(三井)にそれだけの損害が発生したことになるのは明らかである。

三〈1〉 仮に右二の各項で補正した相手方等が不法に供与した株式代金281億2500万円の受領義務不履行の主張に瑕疵があるとしても、相手方等には会社に対し、不法に発行した4,500万株の株券の返還引き渡し義務が残ることになり、更には、仮に右両主張で十分でないとすれば、平成6・9・29付準備書面10―11P五〈2〉の項で既述の如く、4,500万株の、そして三井は昭和63年には1株に対し0.03株の無償増資をしたので、爾来4635万株の大量過剰株式の発行は株価の減価並びに配当金の支払いを通じ三井の損害発生にならぬ筈はないのである。即ち、

〈2〉1. 三井株式の1株当り純資産・含み・収益等を薄め、且つ需給を悪化させるなど三井の株価のマイナス要因になること必定であるが、会社は高株価を利用した時価発行などを最有力の資金調達の手段として体質強化に務めているから、株価の減価は会社の損害となること明らかな実情にある。

2. 而して、三井の合併時の株価625円、当時の発行株式122,300万株を基準として、最も簡略な計算方式で4500万株の過剰株式の発行は22.5円の減価が算出され

〈省略〉

三井は平成2年1月1億株の時価発行をしたので、その時少なくとも、22.5億円の損害が発生したと計算できるのである。

3. 又、時価発行株価1,184円、当時の過剰発行株式4635万株を基準に右同様の方式で計算すれば

〈省略〉

若しくは、

〈省略〉

何れの算式によるも44円の減価が算出され、三井に1億株で44億円の損害が発生したことになり、本来なら三井の時価発行株価は1228円となった筈である。

四〈1〉 更に、三井は現在まで7年間に4500万株、4635万株に対し、配当金として1株5円から7円、現在まで7年間に計20億7927万円を支払い、今後も、現在の配当金は1株7円であるから、4635万株に対し、特段の事情なき限り、毎年3億2445万円の配当金を支払い続けることになるが、これが三井の損害であり、且つ損害の発生源であり続けることは何人にも明白というべきである。

〈2〉 而して、常時巨額の借入金のある三井にとって、右配当金の支払い義務が幾許の経済的損失を与えるか考察すると、三井は本案に係わる第68期に於て3兆6926億余万円の巨額の負債のあった借入金依存体質の会社で金利からは重大な影響を受けており、又一般にも、実質的価値の算定・評価に当っては金利で逆算することは合理的とされているので、年間配当金3億2445万円を仮に年4分(借入金の平均金利が望ましいが調査できなかった。)で逆算すると、「3億2445万円÷0.04=81億1125万円」となり、現在まで7年間のみで既に567億7875万円の「活用し得る資金」が喪失されたことを意味するのである。

五 而して、右状態が幾らの損害になるのか。又配当金の未来永劫の支払義務の損害を幾らに評価・算定するのか。正確には専門家の鑑定評価が必要としても、本案賠償請求額30億円の根拠とする損害としては、前記三〈2〉の項の株価の減価による時価発行時の44億円の損害と合算すれば、全く問題のないこと何人にも明らかな所と思料する。

(三)一 而して、特別抗告人は、「以上、抗告人の損害発生に付ての補正した全主張を勘案すれば、少なくとも、一理あることは何人にも自明の事と思料され、抗告人の不備な主張に対しなされた原決定の事実認定には誤りがあり、少なくとも正当ではないこと前記諸事由に照らし明白であり、而も省みて、抗告人は所謂「悪意」などみじんも意識できないのは固より、損害発生を含めた本案に係わる主張の正当性を確信しているのであり、原決定には損害発生の事実認定に誤りがあるのみならず、「悪意」に関する法令解釈をも逸脱しているという外はなく、原決定は取消されるべきが相当と思料する。」と抗告したものである。

第三(一)一 第2審決定は、右抗告を棄却するに当り、「その理由は、原決定の理由説示のとおりであるから、これを引用する(抗告人は、当審においても、両会社の合併比率が不公正であることにより、会社が損害を被ることとなる所以を種々主張する。その論拠は明らかでないが、結局は物産不動産株式会社の株主に対して割当てられた株式に対する配当金のうち不当に評価された株式部分に対応する部分が会社の損害になるとの主張に帰すると思われる。しかし、その理由のないことは原決定の説くところから明らかである。)」と判示されている。が、事実認定の誤りがあること明らかというべきである。

二 何故なら、右第1、第2審共通の判示の中「株主間に不公平が生じるとしても、……会社に損害は発生しない」との論旨は、合併に係わる特段の事情を斟酌すれば、株式代金281億2,500万円受領義務不履行に付ては、仮に半信半疑としても、「他への資産の流出や新たな債務負担はない」との部分は合併直後に於ては該当したとしても、本案提訴までの7年間(平成5年度迄)に、前記第二(二)四〈1〉項(11・12P)の如く、配当金として支払われた20億7,927万円は(資産の流出)であり、又会社が正常な限り、毎年3億2445万円宛の配当金の支払い義務(新たな債務の負担)は未来永劫継続されるのであるから、明白な事実誤認というべきであり、会社に少なくとも、不法に発行された株式に対し支払われた配当金20億7927万円の損害を発生させたこと明らかというべきだからである。

(二) 元来、本案違法な合併による両社株主間の不公平の発生と三井の損害の有無とは表裏一体のものと解するのが一般で、著しく不当な281億2,500万円相当の三井の株式の割当が物産不動産株主を有利にし、三井の株主を不利にさせたのは、三井に同額の代金相当額の入金がなく三井が損害をうけたからでもあるというべきである。

然るに、原決定は、右の如く株主間の不公平の発生は三井に代金相当額の損害が発生しているからでもあるにも拘わらず、この重要事実を否認し、「会社自体に損害は発生しない」と判示しているが、その論旨はいまだに得心できず、况してや合併の清算(経理的)処理とは直接的関連が全くないのみならず、後記第五(一)の項でも記述の如く、「合併並びに株主総会決議が共に無効に該当する」著しく不公正な合併比率によって不当に発行されたこと明らかな4,500万株に対する配当金20億7927万円に付て、第2審の「配当金のうち不当に評価された株式部分に対応する部分が会社の損害になるとの主張は……その理由のないことは原決定の説くところから明らか……」との判示は、仮に本案違法な合併自体は会社に損害を与えないとしても、著しく不公正な合併比率が適法且つ正当化される訳ではないから、合併後の右不法に発行された株式に対する配当金は当然会社の損失と解すべきであり、到底得心できない所である。

(三)一 蓋し、特別抗告人の主張に対する第1、第2審決定は共に本案合併計画の全容及本質を十分把握せず、相手方等の責任を追究した主張の正当性を全く裁量されず、失当というべきである。

何故なら、仮に本案合併議案の決議が無効になれば、会社には4名の物産不動産株主から著しく不当に割当交付した株式4,500万株と支払った配当金20億7927万円の返還引渡しを受ける権利・義務が発生するが、本案合併契約並びに株主総会の決議は何れもそれ自体が無効に相当する不法な内容であることは、前記第二(一)の各項で詳述した如く、相手方等が特定の物産不動産株主のみを利するため、稀有の背信を露骨に重ねた商法第486条の背任該当行為によるものであることは、合併無効で提訴以来7年に亘り検討している特別抗告人の100%の不動の確信となっている。

二 従って、特別抗告人は本案の訴状の請求原因三⑩注の項(19P)で、本案合併契約並びに株主総会の決議は共に無効に該当する旨の主張を加えると共に相手方等の右背任行為の結果、会社に右一の項の会社が負う権利・義務と略同様の損害が発生しているに違いないと確信し、本案に於て相手方等の損害賠償責任を請求した特別抗告人の主張には充分の理由があり、所謂「悪意」などみじんもないこと明々白々であるにもかかわらず、更には次の(四)の項の損害発生の合理的主張とともにこれを看過して「悪意」と認定されたからである。

(四)一 更に前記第二(二)三〈2〉項(10・11P)で詳述した株価の減価により、平成2年の1億株時価発行の際44億円の損害が発生したとの、決定に影響を及ぼすこと明らかな重要な主張に付て、第2審決定はこれを否認して事実認定を誤ると共に、これを棄却する合理的説明が全くなされていないから判断遺脱(再審事由)若しくは理由不備(上告理由)に該当すること明らかというべきである。

二〈1〉 即ち、資金調達上著しく有利な時価発行並びに時価転換社債の発行は高株価の会社のみが可能であるから、殆どの上場会社は高株価を志向し、そのため、今や株価経営時代、法・個人共株式による財テク熱中時代といってよく、発行株式数の大量増加は1株当り純資産・含み・利益等を薄め、且つ需給を悪化させて、株価の減価要因となり、それが会社の不利益・損害となることは、発行会社は固より、証券会社、法・個人の全投資者を含めた関連者一同の共通の認識事項となっているのである。

〈2〉 従って、前記第二(二)三〈2〉の項(11P)で既述の如く、相手方等の不法により著しく過剰に発行された4,500万株、4,635万株の大量株式が三井の株価を減価させ、その分三井に損害を発生させるとの主張は、株式関連者の間では常識的であるから、三井が平成2年に単価1,184円で1億株の時価発行を実施した際、44億円の損害が発生したとの算定は前記第二(二)三〈2〉3の項の算式により極めて容易に算出され、正確には専門家の鑑定が必要としても、長年月の体験に照らし大きな誤差は生じていないと確信し得る数値である。

三 而して、右の損害は前記第二(一)一〈3〉項(4P)の15冊の鑑定評価書のための冗費2億円と共に三井自体に発生した全株主共通のものであり、而も合併契約時には予定し得ない時価発行に基づくものであるから、第1、第2審決定説示の「合併による株主間の不公平……」の論旨では到底律し切れるものではなく、従って、「会社に損害は発生しない。」とする原審決定は失当なこと明らかというべきである。

第四(一)一 商法第106条〈2〉項の悪意につき、学説は「ことさらに会社に不利益をこうむらせようとする意図と解しうる(註釈会社法 小坂一郎)。」としている。

しかし乍ら、第1審決定は、悪意の範囲を拡大し、「株主代表訴訟の提起がいわゆる不当訴訟を構成する可能性が高い場合は、商法267条5項、6項、同法106条2項に基づいて、担保の提供を命ずることができると解すべきであり、具体的には、請求原因の重要な部分に主張自体失当の点があって、主張を大幅に補充あるいは変更しない限り請求が認容される可能性がない場合、請求原因事実の立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由がある場合、あるいは被告の抗弁が成立して請求が棄却される蓋然性が高い場合等に、そうした事情を認識しつつ敢えて訴えを提起したものと認められるときは、「悪意」に基づく提訴として担保提供を命じ得ると解するのが相当である。」と判示している(・印特別抗告人付す。)。

二 而して、特別抗告人は再三記述の如く、本案に関する損害発生を含めた凡ての主張を正当且つ立証可能と確信しているのであり、「……そうした事情を認識しつつ敢えて訴えを提起した……」など全く該当しないこと明らかである。

(二)一 而して、本案相手方等の不法行為により、前記第三(三)項の特別抗告人主張の如く、会社に損害が発生していると解するのが一般的であると共に特別抗告人の不動の信念であるのに、「株主間の不公平は生じ得るが会社に損害は発生しない」との第1、第2審決定の論旨は、合併に精通するか余程学のある見識者以外理解し難いものであるから、特別抗告人の主張自体を棄却する理由とするならとも角、「……原告の悪意を認めるべき場合にあたる。」と悪意決定の理由としたことは特別抗告人の主張の真意並びに前記第三(四)の項の如き主張を正当に理解されないのみならず、商法第106条2項の法意を著しく逸脱されたものであり、又巨額担保提供命令の決定は実質的な裁判拒否に該当するから、折角商法第267条4項の新設により拡張した代表訴訟の機能を不当に制限すると共に特別抗告人から本案並びに本件に付ての公正な裁判を受ける権利を奪ったに等しいというべきである。

第五 特別抗告人の追加主張

(一)一 相手方等の不法行為による本案合併契約は、合併条件(合併比率)の決定方法が前記第二(一)一、二各項(4~6P)の記述の如く、物産不動産の株主を利するため、同社株式の株価を利害の対立する合併相手の三井の資産の再取得評価額で妥当値の4倍に算定するという著しく不公正なもので、正常なら物産不動産1対三井1の所、三井4に決定したのであるから、私的独占禁止法第15条〈1〉項2号の「当該合併が不公正な取引方法によるものである場合」に該当し、合併が禁じられているのである。

二 又、昭和62・6・26開催の第68回定時株主総会で決議された本件合併契約書承認の議案も、その内容が右の如く法令に違反するのみならず、本件第1、第2審決定の説示により「株主間に不公平を生じさせ」株主平等の原則にも反することが明らかになったので、右の決議は無効が当然であり、改めて決議の無効を明白に主張する(既に、本案訴状請求原因としても主張しております。)。

(二) 以上の如く、相手方等の本案不法行為は会社に重大な悪影響が生じる危機を存在させ、会社の名誉・信用を傷つけて会社に無形の損害を与えてきたこと明らかであるから、これを本案訴えの請求原因として追加主張すると共に本件にも援用する。

(三)一 尚、本案は平たく言えば、各不動産会社株式の暴騰の最中、相手方等は三井所有の物産不動産株式を利用することを思い立ち、三井が売る必要のない同社株式を親密な関係者(自らも関与)のみに売却させ、著しく不公正な方法で同社株式の株価を妥当値の4倍に吊り上げ(他に買う者がいる筈はないので)、三井が同社を吸収合併する方法で三井の株式を正常の4倍も割当て、実質上同社株式を三井に買戻させたものである。

二 三井の株式であろうとも現金・小切手等の代りに、物産不動産株式の買付け代金として実質的に使用され、「1」の価値のものを「4」で買い戻せば三井に差し引き「3」の損害が発生したと考えるのは当然で、特別抗告人が相手方等の右背任行為は合併並びに総会の決議を無効にさせると主張すると共にその賠償責任を請求したことが、省みて所謂「悪意」などである筈はなく、又「天網恢々疎にして漏らさず」で、斯る狡猾な不法は前記時価発行時の損害で明らかな如く、必ずや三井に損害を発生させていることになるに違いないと確信する。

結び 原審決定には、前記の如く、特別抗告の理由のあること明らかである。

よって、原決定を破棄のうえ、更に相当の裁判を求める。 以上

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